夢を見た。
甘ったるい夢を見た。甘すぎて吐き気がするほどに甘い夢を見た。
お菓子に囲まれた夢とか、そういうんじゃなく、というかお菓子に囲まれた夢なんて大歓迎だよ私は。
大好きお菓子。I like お菓子。I love お菓子。
どっかの童話のお菓子の家に住みたいと、いまだに本気で思っていたりする私である。
って今はそんなのどうだっていいんだけど、甘ったるい夢を見た。
おかげで目覚めがとことん悪い。吐き気する。
『愛してますよー』
『私もー』
なんて会話を、夢でも私とアイツがしていた事実が悲しくて頭を抱えた。何あれ。私たちそんなんじゃないじゃん。
え、何? 春だから?
まだ春じゃないよ。残念ながら。
「ー。起きてますかー」
「起きてるよ」
ノックもなしに堂々と入ってきた緑色に一瞬右の口角だけが上がった。二、三度ぴくぴく動いたが、必死の思いで平常時に戻す。
嫌な顔なんてしたくはないけど、それもこれも今日見たあの夢のせい。つまり私のせい。
そういうのは見たやつが悪いんだって昔お母さんが言ってた。
で、人のせいにしたら殴られた。痛くて泣いたらそれくらいで泣くなって怒られた。今思ったらちょっと酷い。
ちょっと常識はずれな母さんだけど、尊敬している人だから文句言えない。言ったけど。
「パジャマのままじゃないですかー。ミー外で待ってたんですけどー」
「うっわ。普通に入ってこいよ」
「機嫌悪っ」
ああ、彼氏にこんな言葉吐きたくないよ。何なんだこの口。何勝手なこと言ってんの。まあ普通に入ってきたらいいのになって思いはしたけど。
「……夢見悪かったんだ。ごめん」
「相変わらず馬鹿ですねー。ミーが離れる夢でも見たんですかー?」
いや、ごめん。その逆です。
密着しすぎってくらい密着して、今にも「ダーリン」「ハニー」とか言い出しそうでした。
「……どんな夢だったんですかー?」
「フランと私が気持ち悪いくらい密着してラブラブな夢」
「「…………」」
あ、今思ったけど、夢に出てくるってことは願望? まさか私の願望? そんな馬鹿な。実際今吐き気してるんですけど。
でも、フラン見たら治まった。
「そんな夢見てたんですか。やっぱ馬鹿だろ」
「酷っ!!」
そしたら何か、フランが急に部屋の冷蔵庫をあさりだした。何かを取り出して何かたくらんだような顔でこっちを見てくる。
その手に持っているのは“糖分愛好家”の私がよくいくケーキ屋さんで買った一番好きなショートケーキの箱。
……残念。嫌な予感しかしない。
「あーん」
世のカップルが皆こんなことをしていると思わないように。
恥ずかしくてできない人も世の中いることを覚えておいてください。お願いだから。
「ほら、口開けないとミーが食べちゃいますよー」
「だ、か、ら!! フランがそのフォーク渡してくれたら食べれるんだってば!!」
「嫌ですよー」
「何で」
フォークの先に刺さったショートケーキの欠片。
大好きな味が目の前にある。
普段なら一気にパクッといって、美味しいって呟いてるところなのに。フランに食べさせられるなんてそんな、できるはずがないから。
「は、恥ずかしいんだから……」
「? 誰もいませんよー?」
普段誰かがいるところで手を繋いだりするのが苦手なのを知っているからだろうけど、今はフランがいるのが恥ずかしいんであって、周りに人がいないのは当たり前である。私の部屋だし。
しかもまだパジャマのままなんですが。
「フラン、着替えたい」
「着替えたらいいじゃないですか」
「は?」
わかってて言ってるのかあんた。
天然?
確信犯?
「いや、だから出てって」
「がケーキ食べてくれたら出て行ってあげますよー。あーん」
食べたい。着替えたい。
…………食べれば両方解決されるのか。なんて安っぽいけど難しい要望なんだろう。
普通に食べるんだったら別にいいんだけど、このままフランの手からケーキをもらうのは、少し餌付けされている気になる。しかもきっとここでフォークにパクついたらフランとめちゃくちゃ顔近い。
でも、食べたい。
「あーん」
「……っ……あーん、」
観念した。
フランはこう見えて結構頑固なのだ。特に変なことに関しては。
もぐもぐと口を動かしていると、フランが「美味しいですかー?」とこっちをがん見してくる。そんな見るな。穴あくわ。と思いながらも頷くと、彼はあろうことか顔を近づけてきて、そのまま優しくキスをした。
驚いてケーキを呑み込んでしまったけれど口の中はまだ甘いままで、彼の顔が近すぎて恥ずかしいから私もゆっくり目を閉じた。
糖分取りすぎ注意報
- 2010/01/06
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