綺麗だ、と素直にそう思った。
不謹慎だとわかっていたから本人にそれを言うことはしなかったけれど、それでもとても綺麗だと思った。
自分の家族が死んだ。
そう言って夜に電話をかけてきたのは俺の幼馴染で、ひとつ年上のくせに少し頼りなくて、そのくせ力強い、不思議な人だった。
生き物が好きで、動物が好きで、捨て猫を見つけては家に連れて帰って怒られているというのにこりなくて。
今回のことだって自分が一緒に住んでいた猫が死んでしまったことが原因らしい。
飼っていた、と言えば彼女は怒る。飼っているんじゃない。一緒にいてもらっているのだと、昔は何度も訂正されたものだ。
「」
『ごめん……若。遅くに電話しちゃってさ。明日また、話きいてね』
自分から電話したくせに、なんて言う暇も与えず彼女は電話を切った。確かに夜遅くではあるけど、あいつの態度はそれどころじゃないと読み取れてしまって、案の定次の日は学校を休んでいた。
死んでしまった猫は、が小学校一年生に上がると同時に拾ってきた猫だ。
真っ白で、左目の周りだけ黒い妙に人懐っこい猫だった。
「、学校のプリント」
今日はの家に寄ると言ったら向日先輩に押し付けられたそれをの部屋の机に置く。
「ねえ若……」
「何ですか」
「何で人間よりも猫の方が早く死んじゃうの?」
よくわからない。
何でそんなこと言うんだろう。
それはその猫の寿命だったってだけの話じゃないのか。
でも、知っている。
はそんなことで納得できる人じゃない。
そのとき流した涙が、あまりにも綺麗だった。綺麗だと思った。
透明なそれは、カーテンのかかった窓からわずかに差し込む光にキラキラと小さな光を放つ。
「」
「何……?」
「俺は死なない」
「……え?」
は寂しがりやだから、誰かが消えていくことが怖いんだと知っている。それがとても寂しいんだと前に言っていたことを覚えている。
だったら、俺がいつまでも側にいる。
が寂しくないように。
が泣かなくていいように。泣いても一番に慰めてあげられるように。
「なんでそんなこと……」
「好きだから」
はよっぽど驚いたらしい。涙が急に止まった。
「わ、たしも」
少し頬を染めて、困ったようにはにかんで。
「私も、好き」
そう言ったの笑顔が昔と変わっていないことに気付く。
幼稚園の頃から比べればずっと大きくなったし、顔も表情も大人っぽくなったと思っていた。
それでもふとしたときに見せる表情に残る幼さが酷く懐かしい。
寂しがりな君のために
- 2010/01/05
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