「隊長」
「どうした、
「書類終わりました」

十番隊三席。
俺の恋人だ。
とはいえ、自身が公私混合を嫌うたちであり、仕事場に私情を持ってくることはない。同じ隊であるから毎日顔を合わせてはいるが、職場での呼び方は「隊長」のままだし、俺も「」と呼んでいる。

隊員にはすでに松本のおかげでバレてしまっているから別にいいんだが、それでは俺の迷惑になるかもしれないからとが言ってくれているのだ。

、この書類頼む」
「はい。……ってこれ、乱菊さんが見るような分じゃないですか。またいないんですね」
「ああ」

さっき出て行った、と言うと「なるほど」とあきれたように扉のほうを見る。
大方瞬歩で逃げたのだと気付いたのだろう。事実だし、そうでなければ俺が捕まえて引き戻している。

「じゃあこれが終わったら探してきます」
「頼む」

任せてくださいと微笑むに口角が少し上がった。この笑顔を好きになったのだ。
真面目で優秀な彼女が、ふと気を抜いた瞬間に見せるその笑顔に。優しく穏やかな雰囲気が俺を落ち着かせてくれるから。

渡したばかりの書類を持って自分の席へ戻る。三席にまで上り詰めたのは自身の実力だが、現世任務にいってしまった時は心配でたまらないから、正直ヒラだったらよかったのになと思うことがある。


「お疲れ様です、三席」
「お疲れ様です。今日は無理せずゆっくり休んでくださいね」

職場では基本敬語の彼女が先に退室する部下を穏やかな笑みで見送っていく。
自分の仕事が終わっても俺がまだ残っていれば待っていてくれるのも、本人が無意識にする気配り。
素でやっているからそれもすごい。


「何?」

茶を入れてくれていた彼女を呼んで抱きしめる。少し甘い香りが鼻を突いた。

「冬獅郎、お仕事は?」
「もう終わった」
「そっか」

ニコッと笑う彼女はふわふわとした空気を持っていて、自然にこっちまで笑顔になる。

「仕事、疲れなかったか?」
「全然平気。冬獅郎こそ大丈夫?」
「ああ」

こんなゆったりした時間もなかなかいいかもしれないな、と彼女と一緒にいると常々思う。

「今度の休みにどっかいくか」
「ほんと? 嬉しい」

久々だねーとか、楽しみーとか言うに微笑んで、無邪気な彼女にキスをした。

穏やかな刻

(隊長ったらには甘いんですから)
  • 2010/01/06
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